最近、日本では「ついに日本人も海外に出稼ぎに行くようになった」という話題がマスコミによく取り上げられます。留学を検討している方、特に就労可能なワーキングホリデーを考えている人にとっては、気になる話題かもしれません。
マスコミで取り上げられている事例は極端なものも含まれていますが、日本人が欧米諸国で就労した際に日本に比べて多くの所得を得ることができ、それを日本に持ち帰ることにより1~2年ほどで大きなお金を得るという“出稼ぎ”が可能な状況にあるのは紛れもない事実です。これは日本では賃金が低く抑えられがちな若い方にとっては魅力的な話に映ることでしょう。
この記事ではなぜ日本人が海外で“出稼ぎ”するようになったのか、そしてオーストラリアの賃金事情を例に、どのようなイメージの出稼ぎが可能になっているのか解説します。
何故、日本人が海外で出稼ぎするのか?
“海外へ出稼ぎ”と聞くと、日本でも中国や東南アジアなどの人が、賃金の高い日本を就労目的で訪れ、給料の一部を母国に仕送りすることをイメージすると思います。
例えば、東南アジアの人が日本に出稼ぎに来て、毎月20万円の収入を得るとします。友人たちと共同生活をすることで生活費を抑えて毎月10万円貯金する生活を送ります。そうやって3年間働くと360万円の貯金ができることになりますが、これを物価1/5の母国に持ち帰ると1,800万円相当の価値を持つことができます。たった3年間海外で働くことで、家族で暮らす家を立派にしたり、兄弟を大学に進学させたりすることができるようになるわけです。
このように国によって異なる賃金差を利用して、賃金が安い国の人が賃金が高い国で働くのが海外への出稼ぎというものです。しかし、これができるのは貧しい国の人だけのはずです。最近、日本人が海外で出稼ぎすると言われるようになったのは、日本の豊かさが国際的に低下してしまい、日本よりも豊かな国との格差が開いてしまったことが大きな原因なのです。
理由1 日本は30年間も給料が上がらない
2022年の日本の平均賃金は世界で何番目だと思いますか?
「世界第3位の経済大国だから5位以内では?」「先進国なので10位以内だろう」と考える人もいるかもしれません。
正解は21位です。
日本は高度成長期、バブル経済と経済発展を遂げ、世界第二位のGDPを誇る国になりましたが、バブル崩壊後の1990年頃から平均賃金は30年以上前からほとんど変わっていません。さらに消費税、社会保障費は上がり続けていることから、実際に使える所得は下がり続けています。
しかし、多くの国は賃金が上昇し続けているため、日本の平均賃金は相対的にどんどん下がっていると言えます。
理由2 歴史的な円安
2022年10月時点では$1=151円台にまで達した歴史的な円安も海外へ出稼ぎするメリットをより大きなものにしています。一時期$1=130円ほどまで戻したとはいえ、再度$1=150円水準にまで円安になっており、この円安傾向はしばらく続きそうです。
これは、日本円の価値が急激に下がったことを意味します。2020年末頃に$3,000の留学費用を支払おうとすると、$1=103円でしたので日本円に換算すると309,000円でした。2023年10月現在は$1=150円のため450,000円となり、たった3年で140,000円も値上がりしたのと変わらない出来事が起こっています。
日本で働いても日本円で稼ぐことになりますから、それを海外に持って行っても円安により目減りしてしまいます。しかし、海外で外貨を稼ぎ、日本に持ち帰ってくれば話は変わります。円安を生かすことで日本ではより大きな金額になるということが起きるのです。
オーストラリアへのワーキングホリデーは事実上の出稼ぎになる
海外で働くことは、言葉などのスキル以外にも就労ビザの取得が大変難しく一般的に狭き門です。現在、日本で海外で出稼ぎと呼ばれているものは、ビザの取得が簡単なワーキングホリデーを利用したものになります。
もちろん、ワーキングホリデーは、海外での語学習得、就労経験、旅行などを通じた異文化交流を目的とされており、就労メインのものではありません。しかし、就労に力を入れてより多くの稼ぎを得ることも可能で、日本帰国時にはまとまった金額を持ち帰ることができるのが昨今の情勢となります。
ワーキングホリデーで人気の渡航地であるオーストラリアの就労事情から、具体的な賃金水準などを解説します。
ワーホリを行う日本人がオーストラリアで就く主な仕事は下記のものがあります。
- カフェやレストランの接客
- 農場での収穫作業
- ホテルのスタッフ
- お土産屋などの店員
- ツアーガイド
- 建築現場作業員
これらの仕事の平均賃金を日本とオーストラリアで比べてみましょう。
カフェやレストランの接客
ホテルのスタッフ
お土産屋などの店員
平均時給 | |
---|---|
日本 | 1,000〜1,200円 |
オーストラリア | AU$25〜30 (約2,500円〜3,000円) |
ワーキングホリデーでオーストラリアを訪れる日本人が最も多く従事するのレストランでの仕事です。日本の2倍以上の収入を得ることができる計算になり、さらにこの金額にチップが加算されることもあります。
この業界は日本では1日8時間、週5日働いても月20万円 (税引前) 稼ぐのがやっとです。しかし、オーストラリアであれば月40万円以上稼ぐ人も珍しくありません。しかも、彼らの接客スキルは高級レストランのようなレベルを求められているわけではありません。しかし、日本の接客レベルは格安なお店でも高品質と言われており、その感覚を活かすことでより高い評価を得ることも可能です。
なお、上記の賃金はショップスタッフやホテルのスタッフも同程度となります。
農場での収穫作業
平均時給 | |
---|---|
日本 | 900〜1,000円 |
オーストラリア | AU$28〜30 (約2,800〜3,000円) |
オーストラリアではワーキングホリデーは通常1年ですが、セカンドワーホリを取得することで2年滞在できます。その取得のための条件の一つになるのが、農場での労働です。季節労働と言われますが、広い国土のため農作物は1年を通して育てられており仕事は通年であります。
農場での仕事は日本の3倍程度の収入を得ることができます。また農場は都市部からは離れた場所にあるため、遊ぶ場所が周りになく、お金が貯まりやすい環境です。そのため、ワーキングホリデーでは古くから短期間で収入を増やしたい人の就労先の定番で、男女問わず人気があります。
建築現場作業員
平均時給 | |
---|---|
日本 | 1,000円〜1,500円 |
オーストラリア | AU$30〜38(約3,000〜3,800円) |
特に資格などが必要ない仕事の中でも、賃金が最も高いのは建築工事現場の作業員です。実はワーキングホリデーで工事現場の仕事に就く人は結構います。しかも意外に思われるかもしれませんが女性でも交通整理要員として採用されており男女問わず就くことができる仕事です。英語力はそこまで問われず、指示が理解できる基礎英語力があればでき、賃金も高いため狙い目でもあります。
日本と同じ仕事でも海外転職することで経済状況が好転する人もいる
当初はワーキングホリデーや正規留学などでオーストラリアを訪れ、結果的に海外への転職を選ぶ方も増えています。
そのような人の一部には、以下のような日本の事情から海外への転職を決意した人は多いです。
- ブラック労働など職場環境に疲弊した
- 今の仕事は好きだけど仕事に賃金が見合っていない
日本でこのまま勤続年数を重ねていっても、労働環境が悪かったり、待遇が改善していかない仕事があるのは、日本でも問題視されています。しかし、海外にいくとスキルが高い評価を得て、労働環境や待遇が一転する職業もたくさんあります。
看護師
平均年収 | |
---|---|
日本 | 新人 320万円 平均 508万円 |
オーストラリア | 新人 AU$77,770 (約778万円) 平均 AU$82,890 (約829万円) |
日本では高い専門知識を持ち、医療現場の最前線で大きな責任を担っているも関わらず、仕事内容と給与が見合っていないとされる仕事の代表格です。さらに夜勤や休日出勤も当然のため労働環境もよいとは言えません。
その看護師は、オーストラリアでは待遇がまったく異なり、給料面だけではなく、休みや労働者の権利がしっかり守られています。
日本人看護師は細かいところまで気が利くという点を評価されて、ICU (集中治療室) に配属されると言われています。私の友人の看護師もICU所属ですが、日本と比べて看護師の地位が高く、労働環境も圧倒的に良いので、オーストラリアで人生が大きく変わったと言っています。
料理人
平均年収 | |
---|---|
日本 | 新人 310万円 平均 419万円 |
オーストラリア | 新人 AU$58,645 (約586万円) 平均 AU$66,118 (約661万円) |
日本では長時間労働で休みも取りにくい業界の1つである飲食業界。お客さんの感動を直接感じられるやりがいのある仕事ですが、平均給料も低くなりがちで、旧態依然とした職人の世界ということもありパワハラといった問題も根強く残っています。実際にそれらが原因で料理の世界から退く人も大勢いるのが現実です。
そのような人たちがオーストラリアを舞台に料理人で活躍している日本人は非常に多いです。オーストラリアでは特に和食の料理人が不足しており、高待遇の求人も多くなっています。これは日本人の料理人で英語を話せる人材が極端に少ないことが原因に挙げられます。
このため、日本では調理人として平均的なスキルの人でも、オーストラリアでは英語が話せるだけで、一気に希少な人材として扱われ重宝されるということが起こります。
また、オーストラリアは労働者の権利が非常に強いことから、日本のようなブラックな労働環境というものは、ほぼ存在せず、休暇もしっかり取得でき、残業代も支払われます。
私の友人の料理人は日本では有名な某レストランで働いていましたが、パワハラが当たり前の環境だったそうです。しかし、フィリピン留学で英語を学び、オーストラリアへ渡ったことで、日本とまったく異なる良好な労働環境下で料理人を続けています。
介護士
平均年収 | |
---|---|
日本 | 新人 230万円 平均 400万円 |
オーストラリア | 新人 AU$50,086 (約501万円) 平均 AU$57,720 (約577万円) |
日本では仕事内容の割に賃金が低いことで問題視されている介護士も、オーストラリアでは人手不足のために売り手市場の業界です。賃金はそこまで高くはないとはいえ日本の1.5〜2倍程度の賃金水準になっています。また賃金だけでなく労働環境も日本より良好なため賃金差以上に好待遇と感じる人が多い仕事になります。
保育士
平均年収 | |
---|---|
日本 | 新人 300万円 平均 320万円 |
オーストラリア | 新人 AU$48,750 (約488万円) 平均 AU$52,650 (約527万円) |
保育士も日本では、仕事内容が賃金に見合わず、労働環境もあまり良いとは言えない仕事の一つとして認識されています。しかし、保育士も日本の1.5倍以上の賃金水準になっており、労働時間や休暇なども明らかに良い待遇を受けられます。
システムエンジニア
平均年収 | |
---|---|
日本 | 新人:250〜300万円 平均:450〜600万円 |
オーストラリア | 新人 AU$101,282 (約1,012万円) 平均 AU$120,000 (約1,200万円) |
IT業界は所属する会社や役職、スキルなどによって収入に大きな差が出るため一概に比較はできないのですが、それでもIT業界では日系企業と外資系企業の大きな賃金格差はよく話題になります。オーストラリアでもIT系の仕事は給料が高い傾向にあり、オーストラリアの会社へ転職したことで賃金が倍になるということは珍しくありません。
IT企業は海外との取り引きがあることも多いので、日本企業と取り引きがある企業では、日本語ができることは評価されるスキルになります。当然社内では英語が必要となりますが、日本人であるということが武器にできるポジションがあるのは大きな魅力です。
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給料が高くても生活費が高いから意味がない?
海外の給料が高いという話題になると、必ずといってよいほど「給料が高くても生活費も高いので意味がない」という意見が出てきます。確かにオーストラリアは日本より物価が高い国です。外食をすればフードコートのような場所で、軽食とドリンクを食べれば軽く1,000円は超えますし、友人とカジュアルなレストランで夕食をとれば4,000〜5,000円程度することは多々あります。
しかし、ワーキングホリデーなどの一時的な滞在で“出稼ぎ”するのであれば、日常的に生活費を抑えることは十分に可能です。
- 自炊する
確かに外食は高いのですが、スーパーでの肉や野菜などの値段は日本と比べて明らかに高いということはなく、若干高いかなと思う程度です。また、市場などを利用すると日本のスーパーより安く買えることもあります。 - シェアハウスを利用する
オーストラリアは家賃も高いことで有名です。確かに1人暮らしをすると家賃は高くなりますが、シェアハウスであれば月10万円程度でも選択肢は多くあります。もちろん、光熱費も人数で割ることになるので安く抑えられます。
上記のような生活は、それほどストイックな生活ではなく、従来からワーキングホリデーの日本人がとっている生活スタイルです。このような生活であれば、1ヶ月あたり15万円程度の生活費に抑えることは十分に可能です。
フルタイムで働けば月30~40万円稼げることを考えると、月20万円程度、税金を差し引いても毎月10~15万円程度の貯金をすることができます。この貯金をオーストラリアで使ってしまっては“出稼ぎ”にはなりませんので、日本に持ち帰ることで、たった1年で120~180万円、2年で240~360万円といった貯金を作ることが可能なのです。
ワーキングホリデーできる年代の方では、日本で同じ期間働いても、これと同じ金額を貯金することができる人は極めて少ないのではないでしょうか。
収入を決めるのは何をするかより、どこでするか
近年の研究によると、年収500万円の人も1,000万円の人も実は能力的にさほど差はないとされています。年収1,000万円の人が年収500万円のポジションに転職し、そこで業績をかなり伸ばしたとしても、年収が1,000万円に上がることはありません。ノルマがある出来高払いの会社でもない限り、どんなに好成績を出しても月2~3万円上げるのが精一杯といったところでしょう。
しかし、転職をすると能力が上がったわけでもないのに給料が1.5倍になったという例は珍しくありません。つまり、個人の能力よりも、どの位のお金が流れている業界かということの方が、よっぽど賃金を決める要因になっているわけです。
その最たる例が、日本とオーストラリアの賃金格差です。日本でやっていることをオーストラリアでやるだけで収入が2倍、3倍になることも多々あるのです。しかも、日本の方が高いサービスレベルを求められ、仕事がきつい状況が多いにも関わらずです。
日本人がオーストラリアで働いている人より能力が低いなどということはありません。むしろ細かいところまで気づくことができ、チームで動くことに長けた人も多いため、海外でも重宝される優秀な人材も多いと言われています。
日本は残念ながら昔のような輝きはありません。しかし、オーストラリアへワーキングホリデーによる“出稼ぎ”や、海外転職を行うことで賃金を2~3倍に伸ばし、さらに良好な労働環境を手に入れている人が多くいるのも事実です。それも特別なスキルや才能がわけでもない人が含まれていることは注目すべき点でしょう。
英語力が収入を倍増させる
海外で“出稼ぎ”する、転職するにしても、日本人にとって大きなハードルになるのは“英語力”です。これはお金では解決できませんし、身につけるためには努力と時間がかかります。
その点、学習効率の高いフィリピン留学や2カ国留学は非常に有効な自己投資になるでしょう。
今の日本での生活に満足でき、将来の展望も明るいという人は幸せです。しかし、閉塞感を覚えて打開策を模索している方には、一つ海外に飛び出すという視点も検討してみてはどうでしょうか。
海外での就労事情について、いかがだったでしょうか。
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